ロデオというと、荒くれ者の男たちが牛や馬と闘う――そんなイメージを持つ方が多いかもしれません。
でも、そこには気品と勇気を併せ持った“カウガール”たちのドラマも確かに存在します。
その代表格こそが、シャーメイン・ジェームズ(Charmayne James)。
彼女の姿から私は、ロデオとは「誰かに勝つ」ためでなく、「自分の心に勝つ」ための競技だと強く感じさせられました。
シャーメインは、テキサス州出身の少女。
彼女がロデオ界に登場したのは、まだ10代のころでした。
その活躍を語るとき、忘れてはならないのが彼女の愛馬、スキャンピ(Scamper)です。
小柄で目立たなかったこの馬と共に、彼女は全米バレルレーシングで11回の世界チャンピオンという前人未到の記録を打ち立てました。
ある大会中、スキャンピの馬のハミ(くつわ)=口につける金具が壊れたままレースが始まってしまったことがありました。
通常なら走れません。でもスキャンピは、ジェームズの声と体の動きだけを頼りに、完璧なコースを駆け抜けて優勝。
この出来事はロデオ史に残る伝説として語り継がれています。
ロデオ界は、今も男性が圧倒的に多い世界です。
でも、シャーメインはそんな中で、「女性でも、情熱と努力があれば誰よりも速く、誰よりも強くなれる」と証明してくれました。
彼女は常にエレガントで、芯の通った姿勢を崩さなかった。
それはまさに「カウガールの誇り」そのものでした。
私はアメリカ滞在中に、ロデオのトレーニング体験に参加したことがあります。
模擬とはいえ、本物のアリーナに立ち、土を踏みしめ、息づく馬の鼓動を感じた瞬間、自分の中の何かが変わった気がしました。
それは単なる娯楽ではなく、「本気で生きるとは何か」を突きつけられる体験だったのです。
そして、その時ふと思い出したのが、シャーメインの存在でした。
ロデオは、たしかにハードで危険なスポーツです。
でもそこにあるのは、馬との信頼、仲間との絆、そして何より自分自身との対話。
シャーメイン・ジェームズのように、自分の道を信じて突き進んだ人の姿は、国や文化を超えて胸を打ちます。
ロデオを知らないあなたにも、ぜひ一度だけ、会場の空気を感じてほしい。
静かに土が舞い、馬が走り出すあの瞬間、
きっと何か大切なことを、思い出すはずです。